城崎太一は電話で伝えていた時間より30分遅れてラーメン店に到着した。
ここは、熊本市の繁華街、上通アーケード街にある、創業40年のラーメン店だ。熊本では珍しく、鶏がらスープのラーメンだ。
店内は清潔感にあふれ、壁は上質な木材で造られている。
引戸式の入り口から入って、右側がカウンターで、左側に4人掛けのテーブル席が、カウンターと並行して5席並んでいる。
桐原は店の一番奥のテーブル席で入り口に顔を向けて座っていた。
ロン毛、薄いオレンジ色の度付きサングラス、ブルーのGジャンにブラックストレートジーンズ姿の城崎太一が、カメラなどの機材を入れたキャリーバッグを右肩にかけ、店に入って来た。
「ごめん、ごめん・・・」
と言いながらも、特に慌てる素振りは見られず、城崎は続けた。
「・・・緊急事態がおきちゃってさっ」
城崎は、桐原の向かいの椅子を引いて、ひとまずキャリーバッグをその椅子の上に降ろした。
時刻は午後2時15分。店は、午後2時までの昼の部の営業を終え、休憩に入っていた。
桐原が、申し訳なさを心から全面に表わし、
「大将、すんまっせーん、よかですか? 2杯」
と、カウンターの向こう側の厨房、店の入り口とは反対側の奥に向かって、言った。
白の三角帽に割烹着を着た体格のいい2代目若大将が、にこにこしながら奥から出て来た。
「あいよ! よかよー」
そう言って、前掛けを後ろで締めなおしている。
「あ~・・・すんません、ほんとに」
今度は、少し恐縮そうな感じで、城崎も続いて、謝った。
若大将は、相変わらず、笑顔を絶やさない。
しかし今度は黙って、麺を茹でる。
桐原と城崎は高校からの同級生だ。ともに野球部。ポジションはセカンドとショート。“鉄壁の二遊間コンビ”、といきたいところだが、そこは、熊本で一番の進学校。校風でもうたわれている“文武両道”をモットーとしているとは言え、練習時間は限られていたため、試合では緊張も手伝ってエラーを連発した。
ちなみに、桐原がセカンドで、城崎がショートだった。
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作詞・作曲 Yutaka Furukawa
発売日 2007年 アルバム「High Brid」に収録