J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

80’Sー36 ♪高気圧ガール♪ 山下達郎

前10時。

良雄と鬼木、そして、尾崎は、国道3号線沿いにある海水浴場にいた。

国道に面した海水浴場客のための広い駐車場から、3つの段のついたコンクリートの階段を降りて、浜辺につく。3人は、今、そのコンクリートの階段の2段目に並んで座っていた。

良雄を真ん中に、良雄の左手側に鬼木、反対側に尾崎がいる。

良雄は、結局、ほとんど眠れなかった。机に向かって椅子に腰掛けたまま、時折うつらうつらと舟をこいだくらいだった。そして、朝9時、良雄は鬼木を誘って、この海岸に来た。

すると、尾崎がすでに、このコンクリートの階段に座っていた。

「ヒャッホー」尾崎はその時そう声を発して、「いやあ、すっかりオレもココが気に入っちゃって」と、いつものように豪快に笑った。

 

国道3号線を北に向かい、西側には、この海水浴場があり、東側には、国道と並行して鹿児島本線が通っている。

8月の静かな海をのぞむ良雄たちの左手遠くの方からゆるやかなカーブを描いて、その線路が見える。

 

「しっかし、今日も暑くなりそうだな・・・」

と、鬼木が言った時、その線路の上に3両編成の鈍行列車が乗って来た。

「おい、あの列車じゃねえか?」尾崎が言った。

“まさか、そんな、タイミングよく”

良雄が心の中でそう呟いた。

次第に、列車の走る音が、大きくなり、こちらに近づいてくる。海水浴場の広い駐車場の向かい側、国道のすぐそばに線路がある。3両編成の鈍行列車は、そこで、急ブレーキを効かせて、停車した。もの凄い大きな、鉄の軋む音が、良雄たちの耳にも聞き取れた。

「何だ?」

鬼木と尾崎が、良雄をあいだに挟んで顔を見合わせる。

 

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作詞 山下達郎 作曲 山下達郎

発売日 1983年 アルバム「MELODIES」に収録

 

 

 

80’Sー35 ♪青空♪ THE BLUE HEARTS

の街の駅は、街の中心部アーケード街から、北へ約3キロメートル上った、国道沿いから少し東へ入ったところにある。駅舎の手前には、小さなロータリーがあり、中心には噴水と池が設置されている。駅舎は、古く、そして狭い。入って、左手に切符売り場があり、右手に売店がある。ホームは、上りと下りの2か所だけだ。その上りのホームに、今、何人かの人が立っていた。午前9時52分発の普通列車の到着を待つ。天気は今日も快晴だ。青空に一筋の雲が流れている。

「ごめんなあ、皆ほとんどお盆で、見送りに来れ無くてなあ、全員ではないけど」

と、今日は、白の半袖ワイシャツに青地に白の水玉模様のネクタイをしめ、紺のスラックス姿の大久保清人が、和代と和代の母由美子に言った。

大久保清人の横には、安藤聖子と徳之島明子が、並んで立っている。

「大丈夫だよ先生、そんな、気をつかわなくたって。送別会もやってもらったし。ありがとうございます」和代が言った。

おととい、午前中だけの補講が終わったあと、教室で、お菓子やジュースを持ち込んで、歌や漫才などの余興を挟みながら、和代の送別会が行われた。

「そうですよ、先生。先生もお忙しいのに、わざわざすいません。みんなもね、本当、ありがとう」と、和代の母由美子が、大久保清人と、安藤聖子、徳之島明子に、頭を下げる。

「そんなー、もー、ねー、わたしたち、ホント、暇ですから」

安藤聖子と徳之島明子は、お互いに顔を見合わせながら、母由美子に、そう言った。

やがて、南の方から、3両編成の列車がやって来た。アナウンスが流れる。それに折り重なるように、到着を知らせるベルが鳴る。

「本当にお世話になりました。ありがとうございました」

「みなさん本当、ありがとうございました」

和代と和代の母由美子が、それぞれ言う。

列車が、ホームに停車した。自動扉が開く。

「頑張ってね、ありがとう」と、安藤聖子。

「手紙書くね」と、徳之島明子。

そして、大久保清人が、「じゃあな」と、和代に言ったあと、和代の母由美子に頭を下げた。

自動扉が閉まり、列車は、動き出した。

動いたあとも、乗降口の窓の向こうから、和代と和代の母由美子は、手を振り続けた。

列車は、北へと進み、加速するとホームから見えなくなった。

 

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作詞 真島昌利 作曲 真島昌利

発売日 1989年 アルバム「TRAINーTRAIN」に収録

 

 

TRAIN-TRAIN

TRAIN-TRAIN

 

 

 

青空

青空

 

80’Sー34 ♪全部あとまわし♪ Theピーズ

れから3週間後。

 

夜8時。良雄は、自分の部屋にいた。

勉強机に向かい、椅子に座り、もはや癖となってしまっていた、指の間で回す “シャープペン回し” を、黙々とやっていた。

部屋は、弟の洋介との相部屋だが、今、洋介はいない。

毎年恒例、小中高生が夏休みに入ると、週に1回、土曜の夜に、“土曜夜市”といって、国道をあいだに挟んだアーケード街にて、屋台も出て、“コーラ一気飲み大会” “のど自慢” “花火大会” など、地元の商店街が主催するイベントが行われる。

洋介はそこに行っている。彼女と。

多分、そうだ。夕方、電話がかかってきた。取り次いだ母からは、“女の子だった”、と良雄は聞いた。

やるよなー、あいつ。良雄はのんびりと、そんなことを思いながら、

「しかし俺はなー・・・」と、つぶやいた。

明日、15日、日曜日、和代は、東京へ行く。

普通列車で3駅離れた街まで行き、そこで特急に乗り換える。そして福岡まで行き、そこから今度は飛行機に乗り、東京まで行くらしい。

1回だけ、和代は、良雄の家に来たことがある。もちろん、和代1人ではない。和代の母由美子と一緒にだ。

2年前、和代たちがこの街にやって来た最初の日、和代の母由美子と良雄の母敏子がこの街の高校で同級生だったということで、良雄の家で、歓迎会として、みんなで夕食を囲んだ。

その時からだ。良雄の和代に対する想いは、すぐその場で、“スイッチON”となった。

「遠いよなー」

「・・・なら、文通か?」

まず、まだ相手が自分のことを好きかどうか分かってもいないのに、いろいろと勝手に想いを馳せていた、良雄だった。

 

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作詞 大木温之 作曲 大木温之

発売日 1989年 アルバム「グレイテスト・ヒッツ VoL1」

 

 

グレイテスト・ヒッツ Vol.1

グレイテスト・ヒッツ Vol.1

 

 

80’Sー33 ♪だいすき♪ 岡村靖幸

け放たれた教室の窓から、西日が差し込む。と同時に、ゆっくりと、夕方にふさわしい少しだけ涼しい風が流れてきた。

3階にある教室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。

グラウンドでは、サッカー部と野球部がまだ練習をしていた。

大きな掛け声、金属バットからの打球音が、あたりに響く。

窓際で、そんな光景を眺めていた大久保清人が、後ろを振り向く。

教室には、良雄、尾崎、鬼木、そして和代が、それぞれ少し離れて、椅子に腰掛けていた。

「しかしお前らもようやるよなあ!」と、大久保清人が、両手を腰に当て、白い歯をみせながら、満面の笑顔で言った。

大久保清人は、4人の1年生の時のクラス担任だ。今は、良雄と和代のクラス担任だ。

「まあ結局、何も起こらなかったからな、良かったぞ」

そう言いながら大久保清人は、尾崎健吾の方に近づき、尾崎健吾の肩を軽く叩いた。

そして、「健吾オ、お前もあんまり無茶すんな。卒業できんごとなるぞ」

と、続けた。

さらに、和代の方を向いて、

「和代もな、何かあったらすぐ学校に連絡すること」

と言った。

「すみません」と、和代。

大久保清人は、鬼木にも笑顔で声をかけた。

「お前も良かったな! けんかにボクシング使わなくて」

それから、

良雄にも、笑いながら。

「しかし良雄オ、お前がまさかな。・・・はずしたけどオ!」

「はー・・・」

良雄も、そう答えながら少し笑った。

みんなも少し笑った。

「よオーし! おしまい!! みんな帰れ」

大久保清人は、両手を腰から離し、その両手で、下から風を送るようにして、あおった。

夕陽が、だいぶ地平線のほうへ、傾いていた。

 

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作詞 岡村靖幸 作曲 岡村靖幸

発売日 1988年 アルバム「靖幸」に収録

 

 

だいすき

だいすき

  • 岡村 靖幸
  • ロック
  • ¥250

 

 

靖幸

靖幸

 

 

80’Sー32 ♪RADIO MAGIC♪ アースシェイカー

西郷がゆっくり立ち上がる。

「こッの野郎、やっぱり来やがったな!」

そう言って、右拳を振り上げる。

そこへ、尾崎と西郷らがいる場所の、すぐそばの玄関入り口で成り行きを見ていた鬼木が、尾崎と西郷のところへ走る。

鬼木は、尾崎と西郷のあいだに入るようにして、右ストレートを、

西郷に・・・、

いや、その前に、良雄が、・・・。

良雄が、鬼木の前に出てきて、西郷に、右ストレートをあびせた。

・・・が、はずれた。

良雄のパンチは、西郷が顔を後ろに反らしたことにより、空を切った。

「良雄?」と、鬼木が半分おどろいている。

「なんだ、おめえは!」しかし西郷は、ますます顔を真っ赤にして、今度は、良雄を殴ろうとした。

そこで、“ピピーーーーーーーーッ”。

ホイッスルが鳴った。

鳴らしたのは、体育教師の大久保清人だった。身長183センチ。白のタンクトップに、横に青の3本ラインが入った同じく白の短パンをはき、短い髪に、真っ黒に日焼けした筋肉隆々の体。大久保清人は、体育館の玄関入り口に、仁王立ちしていた。

「よおーし、そこまでだ!」

大久保清人はそう言いながら、体育館の中に入って来た。

 

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作詞 西田昌史 作曲 石原慎一郎

発売日 1984年 アルバム「MIDNIGHT FLIGHT」に収録

 

 

ラジオ・マジック

ラジオ・マジック

 

 

MIDNIGHT FLIGHT

MIDNIGHT FLIGHT

 

 

80’Sー31 ♪NO NEW YORK♪ BOOWY

育館の中には、生徒だけだ。顧問は、大体いつもいない。体育館のフロアの、入り口側の一辺に、横一列に、この街の工業高校の男子生徒が並んだ。みんな、学制服だ。白の開襟シャツを着て、黒のズボンをはいている。

ちょうど真ん中に、パンチパーマをかけた、大福のように真ん丸とした顔の西郷が立つ。その西郷の左手の方に、いつも一緒にいる馬面の男、右手の方に、こちらもいつも一緒にいる小柄な男が、立つ。そして、馬面男の左手の方に、小柄な男の右手の方に、それぞれ、西郷と同じ柔道部員の大柄な男が二人ずつ立つ。大柄男は、4人とも3年生だ。しかし、柔道でも喧嘩でも、西郷にはかなわない。

バスケットボールを小脇に抱え、ユニフォーム姿の海江田和代が、コートを挟んで西郷の真向かいにいる。和代は、ただ、キッとして西郷を睨む。

「ホ~、こわっ・・・」

西郷が何か言おうとした、その時、

西郷の体が、膝からくずれた。

背後で、尾崎健吾が、西郷の右膝のうしろに、自分の膝頭をコツンと当てたのだった。

その場にヘタッと両膝をついて倒れた西郷。

西郷はそのまま、真っ赤な顔をして、目をつり上げ、尾崎の方を振り向き、にらむ。

尾崎は、静かに笑った。「ふっ」

その瞬間、一斉に、他の6人の工業高校生が、尾崎を取り囲む。そしてその中の1人の柔道部員が、尾崎を羽交い締めにした。

 

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作詞 深沢和明 作曲 布袋寅泰

発売日 1982年 アルバム「MORAL」に収録

 

 

NO. NEW YORK

NO. NEW YORK

  • BOφWY
  • ロック
  • ¥250

 

 

MORAL

MORAL

 

 

80’Sー30 ♪せたがやたがやせ♪ 爆風スランプ

の眉毛の上に絆創膏を貼った西郷寛太。おととい、海江田和代に声をかけた際、転んで擦り傷を負った箇所だ。その西郷を筆頭に、いつも一緒にいる、馬面の男と小柄な男。そして今日は、その後ろに、西郷と同じくらい背の高い、ガッシリとした体格の男が4人。リーゼント頭や顎にひげをたくわえたものもいる。この4人は、西郷と同じ柔道部員だ。

西郷たちが、職員室のある棟の横を通り過ぎる時、尾崎は、廊下の窓越しに、彼らを見た。“なんだ、あいつら” 尾崎は心の中でそう思うと、突然、腹を押さえて、傍らに立っている母親の千佳子に言った。

「あたたたた、腹イテ! ちょちょ、トイレ」

千佳子は今日は、真珠のネックレスに、薄紫のフォーマルドレスを着ていた。元々美形なので、そこまで化粧をしなくてもいいのだが、バッチリとメイクをきめ、午前中美容室に行ってパーマもかけてきた。

「まあ、だらしないわねえ。早く行って来なさいよ、次だから」

尾崎は、ろくに返事もせずに、その場を離れた。

職員室のある棟の裏口を出ると、そこは体育館の前だ。

尾崎は、廊下を、棟の玄関がある方角とは反対側の方角に歩き、裏口のすぐ手前にある職員用のトイレのドアを開け、一旦中に入った。

そして、5秒数えて、静かにドアを開け、千佳子の方を確認した。

案の定、千佳子は、手鏡を見て、念入りに化粧の具合をチェックしている。

尾崎はまた静かにドアを閉め、裏口の方へと歩み、素早く外に出た。

 

しかし、西郷たちの方が、一足早かった。一行は、ぞろぞろと体育館の中に入って行く。

体育館の前にあるベンチに座っていた良雄と鬼木は、横目にその光景を見た。

「あれー、なんかヤバいんじゃない?」

鬼木がそうつぶやきながら、ベンチから立ち上がった。良雄も同じようにして立ち上がる。

 

西郷たちが、体育館の中に入ってくると、それまでの、ボールの弾む音や、生徒の掛け声などが、一瞬にして消えた。

静まり返った屋内に、西郷の声が響く。

「コニャニャチワ、かずよちゃん。ユニフォーム姿もかわいいニャン!」

 

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作詞 サンプラザ中野 作曲 ファンキー末吉

発売日 1985年 アルバム「しあわせ」に収録

 

 

せたがやたがやせ

せたがやたがやせ