J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

00’Sー05 ♪The Perfect Vision♪ MINMI 

原は、午後1時から午後5時まで小説を書いたあと、夕食の準備にとりかかる。

自炊は、この6カ月のあいだでだいぶ慣れた。面倒なことはしない。至って簡単、手抜き料理だ。

きょうは、卵と豆腐ともやしの炒め物だ。

まず、卵2個をオリーブ油をひいたフライパンでスクランブルエッグにする。それを、いったん器にうつす。オリーブ油をひきなおしたフライパンで、今度は、もやしを炒める。そこに、一口サイズに角切りした豆腐一丁分を入れる。そして、醤油小さじ3杯、酒・みりん各小さじ2杯を投入。最初につくったスクランブルエッグも投入して、それぞれをゆっくり絡め合わせる。最後に、市販のきざみ葱をかけて、完成だ。

この、題して“もやタマ豆腐”、白飯、インスタントの味噌汁、千切りキャベツ、作り置きしているきんぴらごぼう、これで十分だ。十分すぎるくらい十分だ。

桐原は、ベッドの横に、折りたたみ式の小さな丸テーブルを置き、そこに料理を並べ、胡坐をかいて食べる。

テレビは見ない。かわりに、ラジオを聞く。コンパクトな作りのCDラジカセ。自分のからだの横に置き、民法のFMを聞く。リクエスト番組だ。ちょうど、シカゴの曲がながれていた。

“なんだったっけ? これ”

桐原は箸でもやしをつかみながら、少し考えた。

「あー! サタデイ・・・イン・ザ・パーク、か」

秋の夕暮れは早く、カーテンの向こうはもうすっかり暗くなっていた。

 

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作詞 MINMI 作曲 MINMI

発売日 2002年 アルバム「Miracle」に収録

 

Miracle

Miracle

 

  

The Perfect Vision

The Perfect Vision

 

 

00’Sー04 ♪車輪の唄♪ BUMP OF CHICKEN

原はこれまで、証券会社勤務時代に2回、書き終えた自作の小説を、文芸誌のコンテストに応募したことがある。しかし、いずれも、第一次審査にも引っかからず、砕け散った。今回、自身3作目を書いている。

桐原には、別居中の妻と小学一年生の娘がいる。6カ月前、桐原は、それまで勤めていた証券会社を辞めた。いや、辞めさせられた。リストラされたのだった。本来なら、まだ30代半ば、バリバリにやれる年代なのだが、桐原はその全国各地に支店がある証券会社内において、全営業社員の中、営業成績、常にワースト1位をキープしていたのだ。

当然ながら、会社自体が世界的規模の不景気にさらされている中の人員削減、桐原は、そのリストの筆頭に上がり、何の迷いもなく実施され、桐原もまた何の抵抗もなくそれを受け入れた。

 

リストラが下されたその日の夜、社宅アパートの狭い台所に置かれた小さなテーブルで、桐原は、妻の浩子と差し向かいになって、今後について話し合った。娘の彩佳はその時すでに奥の部屋に敷かれた布団の中で熟睡していた。

 

桐原は切り出した。「俺、小説家になろうと思う。そのためには、集中してやる時間が必要だ。だから、当分のあいだ、バイトしながら、やっていこうと思っている」

 

浩子は言った。「何言ってんの? とうとう頭までおかしくなった? そんなんでやっていけるワケ、ないじゃない。彩佳もまだ今からお金がどんどん要るんだし。わかってる?」

 

桐原は返答した。「わかってるよ。でも何とかなるよ、やっていけば、何とかなるさ。おまえも、・・・パートかなんかやってさ、二人で力合わせてやれば」

 

浩子は短く溜め息をついた。そして、「明日から実家に帰ります。もちろん、彩佳を連れて」と言った。

 

そのあと桐原は浩子から、“あなたの夢のために・・・”だとか、“今さら小説家を目指すなんて・・・”だとか、あるいは、“あなたの営業成績不振のおかげで社宅の奥さん方から何て言われているのか、あなたわかってるの?”だとか、言われた。

 

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作詞 藤原基央 作曲 藤原基央

発売日 2004年 アルバム「ユグドラシル」に収録

 

ユグドラシル

ユグドラシル

 

  

車輪の唄

車輪の唄

 

00’Sー03 ♪スケアクロウ♪ the pillows

原健介の住むアパートは、木造2階建て、1階と2階にそれぞれ、バストイレ付きの1DKが3部屋ずつある。桐原の部屋は、1階の真ん中の部屋だ。

アパートは、国道57号線から、南に3キロメートル程入ったところの住宅地の中にある。アパートから、桐原の勤める工場までは、車で約30分。工場帰りに立ち寄るコンビニは、ちょうど、アパートと工場の中間地点にある。

桐原は、ドアを開け、まさに猫の額ほどのその玄関で、アディダスの白色のスニーカーをぬいだ。玄関をあがると、狭い通路の右手に、台所、手前に小さなシンクがあり、その向こう隣りに2つのコンロが付いたレンジ台がある。左手には、手前にトイレ、その向こうに、体を2つに折り曲げて入らないと浸かれない浴槽の付いた風呂場がある。

そして、この狭い通路の先の、すりガラスの引き戸を開けると、6畳の畳敷きの部屋がある。南に面した窓の向こうには、物干しざおの付いたベランダがある。部屋はいたって殺風景だ。東側の壁に寄せて、シングルサイズのパイプベッドが置かれ、西側の壁に寄せて、手前から、デスクトップ型のパソコンと折りたたみ式のパイプいす、その向こうに、黒色の3段のカラーボックスの上に載った19V型のテレビデオがあり、その向こうに、衣類をしまってある7段式のタンスがある。

桐原は、毎日、午後1時から午後5時まで、デスクトップ型のパソコンに向かって、小説を書く。これは、仕事ではない。趣味だ。しかし、本気だ。

 

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作詞 山中さわお 作曲 山中さわお

発売日 2007年 アルバム「Wakeup!Wakeup!Wakeup!」

 

 

Wake up!Wake up!Wake up!

Wake up!Wake up!Wake up!

 

  

スケアクロウ

スケアクロウ

 

00’Sー02 ♪fry♪ MONKEY MAJIK

原が勤務する工場では、海外向けに出荷する“発電機”を製造している。製造方法は、ライン製造と呼ばれるもので、長さ約50メートルの直線のレーンをあいだに挟み、合計約100名の工員が1メートル置きに向かい合わせになるかたちで並び、約50の工程に分かれ、ベルトの上を3秒間隔で流れてくる商品を仕上げていく。

桐原はこの中で、エンジン部分に燃料タンクを取り付ける工程を担当している。

午前7時から午前11時まで計4時間。時給1千円。週5日勤務。もちろんこれだけでは、生活していくことはできず、桐原はもう一つ仕事をしている。それは、地元が発行する月刊タウン情報誌への原稿執筆だ。桐原は、その情報誌の中で、CDレビューとグルメレポートを書いている。

しかし、この2つの仕事でもまだ生活費には足りない。足りない分は、前職の大手証券会社勤務時代に貯めた貯金を切り崩している。

コンビニの駐車場に停めた車の運転席で桐原は、パンを食べ終えると、残ったコーヒーを飲みながら、携帯電話を開き、CDレビューのための原稿を打つ。CDは、カナダのバンド”ニッケルバック”のニューアルバム。桐原は黙々と文字を打ち続けた。

 

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作詞 tax 作曲 Maynard&Blaise

発売日 2006年 アルバム「thank you.」に収録

 

thank you

thank you

 

  

fly

fly

 

 

00’Sー01 ♪雨上がり♪ くるり

は、午前中だけの工場でのパート勤務を終えると、きまって国道57号線沿いにあるコンビニに立ち寄り、そこで、きまって、ソーセージパンと温かい缶コーヒーを買う。

「パン、温めますか」

若い女性の店員がたずねた。

「はい」

男が答える。

男の名前は、桐原健介。年齢は34歳。中肉中背。髪はやや長い。リーバイス501のブルージーンズをはき、白色のTシャツの上に、背中に“Sprite”とロゴマークの入った緑色のジャージを羽織っている。

桐原は、代金を払い、品物の入ったビニール袋を受け取ると、駐車場に停めた自分の車、古い紺色の日産マーチに乗り込む。

そして、これもきまって、車の中で、買ったパンを食べ、コーヒーを飲む。

10月の秋風が、全開した運転席の窓から助手席の窓へと通りぬけていった。

 

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作詞 岸田 繁 作曲 岸田 繁

発売日 2005年 アルバム「NIKKI」に収録  

 

NIKKI(初回限定盤DVD付)

NIKKI(初回限定盤DVD付)

 

 

80’Sー37 ♪SOMEDAY♪ 佐野元春

「行ってみっか」鬼木が言った。

3人は、すっと、腰を上げ、コンクリートの階段を上がり、駐車場に出た。駐車場には、駐車場の敷地内にあるドライブインの従業員、あるいは、近所の民家の住人など、すでに何人かの人がいた。そして、線路の上、列車の先頭車両のすぐ先に、子鹿が座りこんでいた。

この地区にある港から、沖に中型船で10分程行った先に、周囲約3キロメートルの無人島がある。ここは、日本でも有数の美しい浜辺のある海水浴場があり、夏になると、県内外からの観光客でにぎわう。そして、ここに、もう一つの観光名物、無数の自然の鹿がいるのだ。

まさか、こんな所まで、まぎれて来たのか? それとも、誰かが連れてきたのか? 

詳細は分からなかったが、とにかく、子鹿を線路から移動させなければならなかった。

 

良雄たちを含め、ドライブインの従業員、近所の人たちも加わり、子鹿を、誰かが持ってきた毛布に移すため、みんなで抱えた。子鹿は、レールにつまずいたのか、前脚を負傷して、血をながしていた。

子鹿を、毛布に移した時、1両目の車両の窓から、声がした。

「おいっ!」

和代が、窓から顔を出し、良雄たちを見ていた。

「ゲッ!」

尾崎が言った。

「なーんだ、この列車だったのかー」

鬼木がそう言いながら、和代の方を見上げた。

「何やってんのぉ、朝からボランティア? 良いことだ」

和代がそう言って、微笑む。

 

「あ、そうだ、良雄、今だ、言えよ。チャンス、チャンス!」

鬼木が良雄に向かって言うと、

「おう、そうそう、言っちゃえ、言っちゃえ」

尾崎も続けて、良雄をけしかけた。

「なに?なに?」

和代が目をくりくりさせながら、3人の方を見る。

「あのさ、おれ、和代のことが、好きだ・・・」

良雄は、和代が顔を出している窓の真下から、和代を見上げて、そう言った。

「プッ」

尾崎が右手で口を覆って失笑した。

「おまえ、いきなり過ぎるだろ」

鬼木が、ささやくように、良雄に言う。

しかし、

「良雄、わたしも、好きだよ」

そう、和代が、眼下の良雄に向かって言った。

 

「ヒューッ」尾崎が、口笛を吹くように言った。

「えっ!」続いて、鬼木がおどろく。

その瞬間、列車は動き出した。

 

“え~、みなさま~、たいへん長らく~、お待たせいたし・・・”

車内のアナウンスが聞こえてくる。

“列車は、10分ほど遅れて、発車いたします・・・”

”ご乗客の~、みなさまには~、たいへん~、ご迷惑おかけ・・・”

ゆっくりと、ゆっくりと、進んで、加速して行く。

和代は、3人に、手を振った。

「じゃあねえ、バイバーイ!」

どこからともなく、風が吹いてきた。

3人も、手を振った。いや、良雄は、半ば放心状態路、だった。

だが、2人に遅れて、ようやく手を上に挙げ、その手を左右に振った。

 

列車は、今度こそ本当に見えなくなった。

 

----------------Fin----------------

 

作詞 佐野元春 作曲 佐野元春

発売日 1981年 アルバム「No Damage」に収録

 

 

No Damage

No Damage

 

 

 

サムデイ

サムデイ

  • 佐野 元春
  • ロック
  • ¥250

 

80’Sー36 ♪高気圧ガール♪ 山下達郎

前10時。

良雄と鬼木、そして、尾崎は、国道3号線沿いにある海水浴場にいた。

国道に面した海水浴場客のための広い駐車場から、3つの段のついたコンクリートの階段を降りて、浜辺につく。3人は、今、そのコンクリートの階段の2段目に並んで座っていた。

良雄を真ん中に、良雄の左手側に鬼木、反対側に尾崎がいる。

良雄は、結局、ほとんど眠れなかった。机に向かって椅子に腰掛けたまま、時折うつらうつらと舟をこいだくらいだった。そして、朝9時、良雄は鬼木を誘って、この海岸に来た。

すると、尾崎がすでに、このコンクリートの階段に座っていた。

「ヒャッホー」尾崎はその時そう声を発して、「いやあ、すっかりオレもココが気に入っちゃって」と、いつものように豪快に笑った。

 

国道3号線を北に向かい、西側には、この海水浴場があり、東側には、国道と並行して鹿児島本線が通っている。

8月の静かな海をのぞむ良雄たちの左手遠くの方からゆるやかなカーブを描いて、その線路が見える。

 

「しっかし、今日も暑くなりそうだな・・・」

と、鬼木が言った時、その線路の上に3両編成の鈍行列車が乗って来た。

「おい、あの列車じゃねえか?」尾崎が言った。

“まさか、そんな、タイミングよく”

良雄が心の中でそう呟いた。

次第に、列車の走る音が、大きくなり、こちらに近づいてくる。海水浴場の広い駐車場の向かい側、国道のすぐそばに線路がある。3両編成の鈍行列車は、そこで、急ブレーキを効かせて、停車した。もの凄い大きな、鉄の軋む音が、良雄たちの耳にも聞き取れた。

「何だ?」

鬼木と尾崎が、良雄をあいだに挟んで顔を見合わせる。

 

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作詞 山下達郎 作曲 山下達郎

発売日 1983年 アルバム「MELODIES」に収録