J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

80’S~海をのぞむ街~

80’Sー37 ♪SOMEDAY♪ 佐野元春

「行ってみっか」鬼木が言った。 3人は、すっと、腰を上げ、コンクリートの階段を上がり、駐車場に出た。駐車場には、駐車場の敷地内にあるドライブインの従業員、あるいは、近所の民家の住人など、すでに何人かの人がいた。そして、線路の上、列車の先頭車…

80’Sー36 ♪高気圧ガール♪ 山下達郎

午前10時。 良雄と鬼木、そして、尾崎は、国道3号線沿いにある海水浴場にいた。 国道に面した海水浴場客のための広い駐車場から、3つの段のついたコンクリートの階段を降りて、浜辺につく。3人は、今、そのコンクリートの階段の2段目に並んで座ってい…

80’Sー35 ♪青空♪ THE BLUE HEARTS

この街の駅は、街の中心部アーケード街から、北へ約3キロメートル上った、国道沿いから少し東へ入ったところにある。駅舎の手前には、小さなロータリーがあり、中心には噴水と池が設置されている。駅舎は、古く、そして狭い。入って、左手に切符売り場があ…

80’Sー34 ♪全部あとまわし♪ Theピーズ

それから3週間後。 夜8時。良雄は、自分の部屋にいた。 勉強机に向かい、椅子に座り、もはや癖となってしまっていた、指の間で回す “シャープペン回し” を、黙々とやっていた。 部屋は、弟の洋介との相部屋だが、今、洋介はいない。 毎年恒例、小中高生が…

80’Sー33 ♪だいすき♪ 岡村靖幸

開け放たれた教室の窓から、西日が差し込む。と同時に、ゆっくりと、夕方にふさわしい少しだけ涼しい風が流れてきた。 3階にある教室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。 グラウンドでは、サッカー部と野球部がまだ練習をしていた。 大きな掛け…

80’Sー32 ♪RADIO MAGIC♪ アースシェイカー

西郷がゆっくり立ち上がる。 「こッの野郎、やっぱり来やがったな!」 そう言って、右拳を振り上げる。 そこへ、尾崎と西郷らがいる場所の、すぐそばの玄関入り口で成り行きを見ていた鬼木が、尾崎と西郷のところへ走る。 鬼木は、尾崎と西郷のあいだに入る…

80’Sー31 ♪NO NEW YORK♪ BOOWY

体育館の中には、生徒だけだ。顧問は、大体いつもいない。体育館のフロアの、入り口側の一辺に、横一列に、この街の工業高校の男子生徒が並んだ。みんな、学制服だ。白の開襟シャツを着て、黒のズボンをはいている。 ちょうど真ん中に、パンチパーマをかけた…

80’Sー30 ♪せたがやたがやせ♪ 爆風スランプ

右の眉毛の上に絆創膏を貼った西郷寛太。おととい、海江田和代に声をかけた際、転んで擦り傷を負った箇所だ。その西郷を筆頭に、いつも一緒にいる、馬面の男と小柄な男。そして今日は、その後ろに、西郷と同じくらい背の高い、ガッシリとした体格の男が4人…

80’Sー29 ♪MY GENERATION♪ JUN SKY WALKER(S)

今日は、三者面談の日だ。良雄と鬼木は、すでにそれを終え、晴れ渡る空の下、体育館の前にある木のベンチに座っていた。 体育館の中では、部活動が行われている。入口から見て、手前半分を女子バスケ部が、奥半分を女子バレー部が使っていた。男子バスケ部と…

80’Sー28 ♪こっちをお向きよソフィア♪ 山下久美子

良雄はこれまでの人生で1度も女の子に告白したことがなかった。ましてや言い寄られたこともない。だから、彼女いない歴18年だ。 網戸越しに、海からの風が入って来る。夜は扇風機もいらない。良雄は自分の部屋で、横にしたボールペンを上唇と鼻の間に挟み…

80’Sー27 ♪STOP BREAKIN’ DOWN♪ THE PRIVATES

ちょうどその時、2階から鬼木和彦が下りて来た。鬼木は大学へは進学せず、地元が昨年,工場誘致したNECに就職する予定だ。そして、働きながらプロのボクサーを目指す。だから、夏休みに行われている課外授業には出席しない。朝の新聞配達を終え、2階に…

80’Sー26 ♪ラ・ヴィアンローズ♪ 吉川晃司

お好み焼き屋の中は、ちょうど昼時、満席だった。商店街の近くには市役所があり、公務員の客も多い。店内は、入って左側に、8人が座れるL字型のカウンターがあり、右側に、カウンターと平行して、4人掛けのテーブル席が3つ並んでいる。良雄たちは、入り…

80’Sー25 ♪以心電信♪ イエロー・マジック・オーケストラ

この街の商店街は、東シナ海を横目に、南北に伸びる片側2車線の国道3号線を挟んで、西と東に軒を連ねている。古くなって錆びれたアーケードの中、同じく古びたふうの店が、並んでいる。唯一、新しいと言えば、昨年の年末オープンした24時間営業のほっか…

80’Sー24 ♪CASINO DRIVE♪ RED WARRIORS

教室に入ると、”何やらいつもの雰囲気と違う”、そう良雄は感じた。 良雄の席のすぐ前は、和代の席だ。そこに、人だかりができている。良雄のクラスは文系だ。クラス人数34人の内、21人が女子だ。その21人がすべて集まっているようだった。その中の1人…

80’Sー23 ♪人にやさしく♪ THE BLUE HEARTS

商店街の右側を歩いていた尾崎は、理髪店の前を通り過ぎると、右に曲がった。細い路地。数メートル行くと、右手に、尾崎の祖母絹子が経営するたばこ屋がある。たばこを販売する店舗の部分はシャッターが下りている。その左横、左右に開く引き戸のすりガラス…

80’Sー22 ♪HEART BEAT♪ 佐野元春

真夜中。誰もいない商店街を、尾崎健吾は一人歩いていた。スクーターはガス欠。仕様がないので、歩くしかなかった。 尾崎健吾の母千佳子は、18歳の冬、健吾を産んだ。相手は、2つ年上の市役所公務員。2人が付き合い始めたとき、千佳子は高校1年生で、そ…

80’Sー21 ♪わがままジュリエット♪ BOOWY

午前2時前。尾崎健吾は、自宅の広いリビングの片隅で、あぐらをかき、テレビに向かってゲームをやっていた。“ドンキーコング”。せつないゲーム音が静かなリビングに響く。赤い襟付きのシャツにブルージーンズ。尾崎健吾は、今朝と同じ服装だった。 そのリビ…

80’Sー20 ♪BLUE LETTER♪ 甲斐バンド

それから2年間、全戦全敗。鬼木吾郎はプロになって1度も勝つことはなかった。それどころか、1発のパンチさえ繰り出すことはなかった。 プロとしての最後の試合を終え、引退した鬼木吾郎は、故郷のこの街に戻った。24歳の春だった。吾郎は、地元の運送会…

80’Sー19 ♪ラストショー♪ 浜田省吾

吾郎は、その質問には答えなかった。 実は、鬼木吾郎は、人を殴れない。 吾郎は、今から48年前この街に生まれ、この街で育った。高校ではボクシング部に所属していた。そして、その強さは、高校生No.1。全国大会で2度優勝するなど、いわば、地元のヒ…

80’Sー18 ♪ダディーズ・シューズ♪ ARB

「なんだよ、補導されたんじゃなかったのかよ」 スズキの軽ワゴン“エブリイ”を運転する父鬼木吾郎に、助手席に座っていた息子鬼木和彦がそう言った。 高校が夏休みに入ると、隣街にあるボクシングジムでの練習は、週末だけではなく、平日も行われるようにな…

80’Sー17 ♪FENを聞きながら♪ HOUND DOG

「へっ、またイカ〜?!」 福田良雄の弟洋介が中学校の部活から帰ってくるや、食卓を見てそう嘆いた。 するとすかさず、すでに椅子に腰掛けていた祖母トラが、 「こら!何を贅沢な事を言うちょるか! ばち当たっど!」とたしなめた。 福田家は、先祖代々引き…

80’Sー16 ♪時に愛は♪ オフコース

海江田由美子の実家・津山家は、この街の東側、車で30分ほど行った先の山の麓にある。 両親とも健在で、農業で生計を立てている。 三姉妹の長女である由美子は、地元の商業高校を卒業すると、東京の百貨店に就職した。そこで、その年、客として来ていた現…

80’Sー15 ♪守ってあげたい♪ 松任谷由実

オロナミンCを飲み終えると和代は、老婆に断りを得て、たばこ屋の黒電話をかりた。 そして自宅の電話番号を回し、和代の母に、たばこ屋まで迎えに来てほしい旨を伝えた。 夕飯の支度をしていた和代の母、由美子は、30分ほどして、赤のアルトに乗って、た…

80’Sー14 ♪ピーターラビットとわたし♪ 大貫妙子

和代は商店街を30メートルほど逆走したあと、すぐに左に折れた。 そしてその車1台がやっと通れるぐらいの路地をまた30メートルほど走り、右側にあるたばこ屋に入った。 「また何かあったらここにもぐり込め」 そうこのまえ尾崎健吾が教えてくれた店だ。…

80’Sー13 ♪David♪ 矢野顕子

裏通りにある静かな商店街。夕方6時を過ぎるとなおさら静かになる。 開いている店はほとんどない。 和代は、その商店街の半ばにさしかかったところで、左肩後方からせまる、けたたましいバイクのエンジン音を聞いた。 「チーースッ!」 この町の工業高校2…

80’Sー12 ♪消えない夜♪ 安全地帯

クラスは同じだったが、1年生の頃、海江田和代と尾崎健吾は一言も言葉を交わしたことがなかった。そんなことを思い出しながら和代は、学校帰り、途中女子バスケ部の後輩と別れたあと、一人、母と二人で暮らしているアパートへと向かっていた。 夕方6時を過…

80’Sー11 ♪SITTING ON THE FENCE♪ ザ・ルースターズ

尾崎は、夏の制服姿の良雄と違って、私服だった。半袖のTシャツの上に赤色の襟付きのシャツを羽織り、ブルージーンズにスニーカーだった。 「ひっ、さし振りー! 良雄っちゃん!」 軽やかに階段を1段下りて尾崎は、良雄の左側にヒョイと腰をおろした。 「…

80’Sー10 ♪GROWIN’ UP♪ 渡辺美里

学校は、夏休みに突入した。良雄たち3年生は、午前中だけだが課外授業がある。が、しかし、良雄は、愛用のママチャリに乗り、学校とは違う方向、海岸沿いを走る国道へと向かった。普段は徒歩通学で、学校からは自転車通学の許可はおりていないが、家には、…

80’Sー09 ♪YES MY LOVE♪ 矢沢永吉

たとえ進学校でも、いわゆる不良生徒は何人かいる。尾崎健吾もその一人だ。尾崎は、だれともつるまない。一人で行動する。これまで、喫煙、無免許でのバイク運転、喧嘩、と何度か停学処分をくらった。 ”今回で何度目だろう。鬼木の言う通り、本当にもう危な…

80’Sー08 ♪宵闇にまかせて♪ 大澤誉志幸

尾崎健吾とは、鬼木勝彦や海江田和代と同様、1年生の時同じクラスだった。高校入学して春先、ゴールデンウイーク前、掃除の時間尾崎は、廊下でほうきをギターに見立て、ふざけ半分に『アイ・ラヴ・ユー,OK』を歌っていた。 そこへ良雄が、「あっ、それ、…