クラスは同じだったが、1年生の頃、海江田和代と尾崎健吾は一言も言葉を交わしたことがなかった。そんなことを思い出しながら和代は、学校帰り、途中女子バスケ部の後輩と別れたあと、一人、母と二人で暮らしているアパートへと向かっていた。
夕方6時を過ぎてもまだあたりは明るい。和代の、肩の高さで揃えられたストレートの髪が、海からのそよ風でゆれる。”東京から来たモデルみたいな女子高生”というフレーズで、和代はこの町ではちょっとした有名人になっていた。
和代は、再び東京に戻り、東京の大学へ進学することを目指している。夏休み、午前中の課外授業のあと、午後は教室で勉強をする予定だったが、後輩からの相談事もあり、ついでに、ユニフォームに着替え体育館で練習にも加わったため、勉強はできず、しかもこんな時間になってしまった。
この時期和代たち3年生は部活を引退しているが、和代は元キャプテンで、チームをまとめ、今年高校創立以来初めて県大会で勝利を獲得し、おまけにベスト4まで勝ち上がった経緯もあり、技術はもちろん、後輩たちからの人望もある。
あの時も、期末テスト初日の午後もそうだった。今日と同じバスケ部の後輩、新キャプテンから相談をもちかけられ、夕方まで話し込んでいた。
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発売日 1985年 アルバム「安全地帯Ⅳ」に収録