真夜中。誰もいない商店街を、尾崎健吾は一人歩いていた。スクーターはガス欠。仕様がないので、歩くしかなかった。
尾崎健吾の母千佳子は、18歳の冬、健吾を産んだ。相手は、2つ年上の市役所公務員。2人が付き合い始めたとき、千佳子は高校1年生で、その相手は、同じ高校に通う3年生だった。
彼が、高校を卒業して、公務員になったあとも、付き合いは続いていた。しかし、千佳子の妊娠が分かると、彼の態度は急変し、冷たくなった。やがて彼は、離島への転勤願を出し、鹿児島の南の島、屋久島へ行った。
彼の家は、先祖から継承される武士の家柄で、彼の父親は、この街の市会議員をしていた。彼が屋久島へ行ってしばらくした頃、ある日、彼の父親は、千佳子に、1万円札200枚が入った封筒を渡し、中絶を求めた。これが、結果的に千佳子に固い決意をうながした。
千佳子は、金は受け取らず、健吾を産んだ。
それから、高校を中退し、千佳子は働いた。昼間は、海苔の加工場、夜は、時給のいいスナックで働いた。そして、健吾が10歳のとき、千佳子は自分のスナック店を持った。店の名前は、ブルーシャトウ。尾崎健吾が今歩いているこの商店街の裏通りにある。
健吾は幼い頃、千佳子の母のところによく預けられていた。
千佳子の母絹子は、たばこ屋を営んでいる。先週、海江田和代に、“今度何かあったらここに駆け込め”と言った場所だ。そして実際、きのう、海江田和代が駆け込んだ場所であった。
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発売日 1981年 アルバム「Heart Beat」に収録