良雄はこれまでの人生で1度も女の子に告白したことがなかった。ましてや言い寄られたこともない。だから、彼女いない歴18年だ。
網戸越しに、海からの風が入って来る。夜は扇風機もいらない。良雄は自分の部屋で、横にしたボールペンを上唇と鼻の間に挟み、ラジカセにつないだヘッドフォンを耳にあて、タモリのオールナイトニッポンを聞いていた。
一緒の部屋の弟の洋介は、2段ベッドの上で、爆睡中だ。洋介は、良雄と違ってモテる。容姿は2人ともほぼ変わらず、身長170センチほど、痩せても太ってもいない体系で、さして何の特徴もない顔立ち、なのだが、洋介は、スポーツができた。中学のサッカー部、ポジションはFW、キャプテンだ。小学生の頃から、毎年バレンタインデイには、チョコレートやプレゼントを何十個ともらってくる。
“おそらく彼女もいるのだろう。”と、良雄は思っている。兄弟間において、そういった話は、まったくしない。良雄はロックミュージックが好きだが、洋介はアイドル歌謡曲を好む。洋介が寝るベッドの上、天井には、石川秀美の等身大のポスターがはられている。
良雄は、上唇と鼻の間に挟んでいたボールペンをはずし、手に取りなおし、今度は、その手の中で、人差し指を支点に親指と中指を使ってクルクルと回し始めた。
“告白するっていってもなー”
良雄はボールペンを回しながら、目の前の壁にはってあるポスターを見た。
それは、ローリングストーンズの、分厚い唇から舌が出ているポスターだ。
「ミキ、ちゃん・・・」洋介が寝ごとを言っている。
“誰だよ、みきって” 良雄の耳には、今度は、タモリの作った中国語が入ってきた。
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作詞 康珍化 作曲 大澤誉志幸
発売日 1983年 アルバム「Sophia」に収録