今日は、三者面談の日だ。良雄と鬼木は、すでにそれを終え、晴れ渡る空の下、体育館の前にある木のベンチに座っていた。
体育館の中では、部活動が行われている。入口から見て、手前半分を女子バスケ部が、奥半分を女子バレー部が使っていた。男子バスケ部と男子バレー部は、ともに屋外だ。体育館の利用は週替わりで行われる。
女子バス部の練習には、ユニフォーム姿の和代も加わっていた。3年生は、部活は引退しているが、和代は、たまにこうして、後輩の指導のため、練習に加わる。
和代も先ほど、三者面談を終えた。クラス担任の大久保清人は、和代の転校を残念がった。
和代と良雄たちの1年生の時のクラス担任でもあった大久保清人の担当教科は体育だ。髪形は、常に短く、角刈りで、筋肉隆々。夏のこの時期は、短パンにタンクトップ姿だ。大学生時代は体育の選手として、オリンピック候補にも挙がったとの噂だ。
良雄と鬼木は、体育館の前にあるグラウンドを眺めていた。グラウンドでは、野球部とサッカー部が練習をしていた。
「よっしゃ、良雄! そろそろ和代が休憩に入る頃だ。そこでここに呼び出すぞ。そして、――言うんだ、勇気を持って!」
こんなに熱い鬼木を見るのは、良雄にとって、初めてだった。
「しかしな、言って、そのあとどうすんだよ? むこうは、東京に行っちまうんだぞ。もしOKでも、続かないだろ」
「お前ねえ、だからダメなんだよ。ごちゃごちゃ考え過ぎなんだよ、いっつも。
まず言っちゃえ。言ってから、そのあとのことは考えればいい。行け! 行けばわかるさ!!」
鬼木が熱く語っている頃、職員室の前には、尾崎健吾と尾崎健吾の母千佳子が立っていた。今から三者面談だ。2人は、次の順番を待っている。
尾崎は、今日ばかりは制服を着ていた。しかし、その白の開襟シャツの裾は、ズボンからすべて出し、そのズボンは、いわゆる改造服で、タックを2つ入れ、全体をダボつかせ、裾を軽くしぼっていた。
尾崎が、居場所無さそうに、長くなった髪を、右手の人差し指でかいていた時、
廊下の窓の向こう、正門から、西郷寛太とその他7人の男子高校生が、入って来た。
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発売日 1988年 アルバム「全部このままで」に収録