体育館の中には、生徒だけだ。顧問は、大体いつもいない。体育館のフロアの、入り口側の一辺に、横一列に、この街の工業高校の男子生徒が並んだ。みんな、学制服だ。白の開襟シャツを着て、黒のズボンをはいている。
ちょうど真ん中に、パンチパーマをかけた、大福のように真ん丸とした顔の西郷が立つ。その西郷の左手の方に、いつも一緒にいる馬面の男、右手の方に、こちらもいつも一緒にいる小柄な男が、立つ。そして、馬面男の左手の方に、小柄な男の右手の方に、それぞれ、西郷と同じ柔道部員の大柄な男が二人ずつ立つ。大柄男は、4人とも3年生だ。しかし、柔道でも喧嘩でも、西郷にはかなわない。
バスケットボールを小脇に抱え、ユニフォーム姿の海江田和代が、コートを挟んで西郷の真向かいにいる。和代は、ただ、キッとして西郷を睨む。
「ホ~、こわっ・・・」
西郷が何か言おうとした、その時、
西郷の体が、膝からくずれた。
背後で、尾崎健吾が、西郷の右膝のうしろに、自分の膝頭をコツンと当てたのだった。
その場にヘタッと両膝をついて倒れた西郷。
西郷はそのまま、真っ赤な顔をして、目をつり上げ、尾崎の方を振り向き、にらむ。
尾崎は、静かに笑った。「ふっ」
その瞬間、一斉に、他の6人の工業高校生が、尾崎を取り囲む。そしてその中の1人の柔道部員が、尾崎を羽交い締めにした。
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発売日 1982年 アルバム「MORAL」に収録