それから3週間後。
夜8時。良雄は、自分の部屋にいた。
勉強机に向かい、椅子に座り、もはや癖となってしまっていた、指の間で回す “シャープペン回し” を、黙々とやっていた。
部屋は、弟の洋介との相部屋だが、今、洋介はいない。
毎年恒例、小中高生が夏休みに入ると、週に1回、土曜の夜に、“土曜夜市”といって、国道をあいだに挟んだアーケード街にて、屋台も出て、“コーラ一気飲み大会” “のど自慢” “花火大会” など、地元の商店街が主催するイベントが行われる。
洋介はそこに行っている。彼女と。
多分、そうだ。夕方、電話がかかってきた。取り次いだ母からは、“女の子だった”、と良雄は聞いた。
やるよなー、あいつ。良雄はのんびりと、そんなことを思いながら、
「しかし俺はなー・・・」と、つぶやいた。
明日、15日、日曜日、和代は、東京へ行く。
普通列車で3駅離れた街まで行き、そこで特急に乗り換える。そして福岡まで行き、そこから今度は飛行機に乗り、東京まで行くらしい。
1回だけ、和代は、良雄の家に来たことがある。もちろん、和代1人ではない。和代の母由美子と一緒にだ。
2年前、和代たちがこの街にやって来た最初の日、和代の母由美子と良雄の母敏子がこの街の高校で同級生だったということで、良雄の家で、歓迎会として、みんなで夕食を囲んだ。
その時からだ。良雄の和代に対する想いは、すぐその場で、“スイッチON”となった。
「遠いよなー」
「・・・なら、文通か?」
まず、まだ相手が自分のことを好きかどうか分かってもいないのに、いろいろと勝手に想いを馳せていた、良雄だった。
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発売日 1989年 アルバム「グレイテスト・ヒッツ VoL1」