J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

80’Sー37 ♪SOMEDAY♪ 佐野元春

「行ってみっか」鬼木が言った。

3人は、すっと、腰を上げ、コンクリートの階段を上がり、駐車場に出た。駐車場には、駐車場の敷地内にあるドライブインの従業員、あるいは、近所の民家の住人など、すでに何人かの人がいた。そして、線路の上、列車の先頭車両のすぐ先に、子鹿が座りこんでいた。

この地区にある港から、沖に中型船で10分程行った先に、周囲約3キロメートルの無人島がある。ここは、日本でも有数の美しい浜辺のある海水浴場があり、夏になると、県内外からの観光客でにぎわう。そして、ここに、もう一つの観光名物、無数の自然の鹿がいるのだ。

まさか、こんな所まで、まぎれて来たのか? それとも、誰かが連れてきたのか? 

詳細は分からなかったが、とにかく、子鹿を線路から移動させなければならなかった。

 

良雄たちを含め、ドライブインの従業員、近所の人たちも加わり、子鹿を、誰かが持ってきた毛布に移すため、みんなで抱えた。子鹿は、レールにつまずいたのか、前脚を負傷して、血をながしていた。

子鹿を、毛布に移した時、1両目の車両の窓から、声がした。

「おいっ!」

和代が、窓から顔を出し、良雄たちを見ていた。

「ゲッ!」

尾崎が言った。

「なーんだ、この列車だったのかー」

鬼木がそう言いながら、和代の方を見上げた。

「何やってんのぉ、朝からボランティア? 良いことだ」

和代がそう言って、微笑む。

 

「あ、そうだ、良雄、今だ、言えよ。チャンス、チャンス!」

鬼木が良雄に向かって言うと、

「おう、そうそう、言っちゃえ、言っちゃえ」

尾崎も続けて、良雄をけしかけた。

「なに?なに?」

和代が目をくりくりさせながら、3人の方を見る。

「あのさ、おれ、和代のことが、好きだ・・・」

良雄は、和代が顔を出している窓の真下から、和代を見上げて、そう言った。

「プッ」

尾崎が右手で口を覆って失笑した。

「おまえ、いきなり過ぎるだろ」

鬼木が、ささやくように、良雄に言う。

しかし、

「良雄、わたしも、好きだよ」

そう、和代が、眼下の良雄に向かって言った。

 

「ヒューッ」尾崎が、口笛を吹くように言った。

「えっ!」続いて、鬼木がおどろく。

その瞬間、列車は動き出した。

 

“え~、みなさま~、たいへん長らく~、お待たせいたし・・・”

車内のアナウンスが聞こえてくる。

“列車は、10分ほど遅れて、発車いたします・・・”

”ご乗客の~、みなさまには~、たいへん~、ご迷惑おかけ・・・”

ゆっくりと、ゆっくりと、進んで、加速して行く。

和代は、3人に、手を振った。

「じゃあねえ、バイバーイ!」

どこからともなく、風が吹いてきた。

3人も、手を振った。いや、良雄は、半ば放心状態路、だった。

だが、2人に遅れて、ようやく手を上に挙げ、その手を左右に振った。

 

列車は、今度こそ本当に見えなくなった。

 

----------------Fin----------------

 

作詞 佐野元春 作曲 佐野元春

発売日 1981年 アルバム「No Damage」に収録

 

 

No Damage

No Damage

 

 

 

サムデイ

サムデイ

  • 佐野 元春
  • ロック
  • ¥250