朝7時30分。中学3年生の藤倉奈津美は、学校に向かう途中にある、国道57号線沿いのコンビニに寄り、そこで、125ミリリットルの紙パックの牛乳を買う。自分の朝食のため、ではなく、猫の朝食のためだ。
コンビニの隣に、閉店して、何もかもがそのままの状態で放置された中古車店がある。100台ほどの中古車が並ぶ、そのテニスコート2面ほどの敷地内の一角に、小さな段ボール箱があり、その中に、黒地に白のぶちの小柄な猫がいる。段ボール箱の内側には、奈津美の着古したグレーのトレーナーが敷かれてあった。
奈津美が来ると、猫は、小さな前脚を両方とも段ボール箱の縁にかけ、顔を上に向け、「ミャー」と、一声鳴いた。
「おはよう、ミーニャ」
“ミーニャ”という名前は、奈津美が好きなアーティスト“MISIA”からとった。
奈津美は、学校のカバンの中から、紙皿が数枚入った袋を取り出し、そこから一枚を抜き、地面に置いた。
そして、猫をそっと両手で抱え、段ボール箱から外に出した。
「モーニングだよ」
奈津美は、紙皿に、まず少しだけ牛乳をそそいだ。
猫は、すぐ、紙皿に頭を突っ込むようにして、牛乳をちびちびと舐めた。
奈津美は、猫の頭を撫でながら、また少しだけ牛乳をそそぐ。
「ミーニャ、きょうはあたし、学校に行くね」
猫は、聞いているのかいないのか、ひたすらに牛乳をなめている。
猫は、2日前の朝、奈津美が学校に行く途中、この敷地内で、白の軽ワゴン車の下で鳴いていた。黒地に白模様の小柄な猫。毛並みが良く、人に飼われていたのだろうか、最初、奈津美が近寄って来ても逃げようとはせず、むしろ、ミャーミャーと奈津美に向かって何かを求めるかのように鳴いた。
"飼い主が捨てたのか"奈津美はそう思いながら、とりあえず、隣のコンビニから空の小さな段ボール箱をもらい、そこに、猫を入れた。そしてきのうの朝、家から持ってきた自分の着古したトレーナーを段ボール箱の中に敷いた。
「だからだめだよ、どこにも行っちゃ。ここにいるんだよ」
猫の右目の上には、1センチほどの細長い赤い傷があった。
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作詞 RIP SLYME 作曲 RIP SLYME
発売日 2001年 アルバム「TOKYO CLASSIC」に収録
- アーティスト: RIP SLYME,Breakestra,Hirotaka Mori,Mixmaster Wolf
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2002/07/24
- メディア: CD
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