J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

00’Sー12 ♪春風♪ くるり

 津美は、机の引き出しを開け、そこから明治アーモンドチョコレートの箱を取り出した。そして、箱の中から一粒つまみ、それを口に放り込んだ。次にラヂオをつけた。机の上に載った、コンパクトタイプのCDラジカセ。民放のFM,エフエム熊本を聴く。これが日課だ。たまに番組にメールを送る。パソコンからではなく、携帯電話から送る。

 携帯電話は、小学生高学年の頃から持っている。

 父三郎が失業中で、家計は困窮しているが、家族4人それぞれが持つ携帯電話の代金は、母景子が何とか払い続けていた。

 奈津美の通う中学校は、藤倉家の家族の携帯電話番号までは把握していなかった。固定電話にかけても父も兄も面倒くさがって電話に出ようとしない。だから、奈津美がどれだけ学校をサボっても、学校は連絡の取り様がなかった。また、わざわざ家まで教師らが訪ねて来ることもなかった。

 ラヂオからは、奈津美の知らない古い洋楽が流れていた。

 きょうは夜7時から塾がある。奈津美は、来春、高校受験を控えている。

 塾の費用について、以前、奈津美は、父の再就職が決まらない中、家計を心配し、母に“塾をやめる”ときり出したことがあった。しかし母景子は、“大丈夫、心配いらないから”と奈津美に説いた。

 奈津美は、3年生になり、学校へ行く日数は減ったが、学力は落ちていない。この前の中間テストでも学年で10位以内に入っていた。

 奈津美の志望校は、地元の進学校だった。奈津美をいじめているグループは、そことは違う高校を志望している。

 奈津美は、塾から与えられていた数学の問題が羅列されたプリントを、机の上に広げ、それらの問題を解き始めた。目の前のCDラジカセからは、ジャニス・ジョプリンの歌声が聞こえてきた。

 

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作詞 岸田繁 作曲 岸田繁

発売日 2000年 アルバム「ベスト オブ くるり」に収録

 

 

ベストオブくるり/ TOWER OF MUSIC LOVER

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