朝7時から朝11時までの工場の仕事を終えると桐原は、いつものように、帰り道にある国道3号線沿いのローソンに寄る。そしてそこで、いつものように、昼食のソーセージパンと缶コーヒーを買い、敷地内の駐車場に停めた自分の車の中でそれらを飲食する。車のラジオをつける。80年代の歌謡曲が流されていた。
今日は、昼から、地元タウン情報誌に掲載するグルメコラムのための取材がある。“コラム”と言っても、桐原はそのすじのプロではない。この仕事は、桐原の高校時代の友人で、現在フリーカメラマンの城崎(しろさき)太一(たいち)から紹介されたものだった。
桐原健介は、ここ熊本市の生まれで、市内の進学高校を卒業し、一浪の末、大阪大学経済学部に入学した。
そして大学卒業後、大阪に本社のある大手証券会社に就職。大阪本社にて、営業企画部、総務部、人事部を経たのち、2000年9月、会社の社長・役員の大幅な交代に伴う大規模な人事異動により、出身地である熊本支社に配属、生まれて初めての営業職を任された。
時は、バブル崩壊以降の経済低迷期、桐原は、投資関連商品を売ることに違和感を抱いていた。これが本当に顧客のためになるのか? リスクの方が多き過ぎるのではないか? 顧客の利益よりも会社の利益を優先するこの営業戦略に嫌気がさしてきた。
だから、やる気はゼロ。営業成績は、全営業社員中、6カ月連続ダントツ最下位独走だった。
ついに、2001年3月、会社の第2次大規模リストラ改革の中、桐原は恰好の対象となり、退職となった。
ソーセージパンを食べ終え、ドリンクホルダーの中の缶コーヒーに手を伸ばそうとしたとき、黒のMA1タイプのジャケットの左ポケットから携帯電話の着信音が流れてきた。携帯電話を取り出し、画面を開いた。画面には“城崎太一”の文字が表示されていた。
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発売日 2002年 アルバム「創」に収録
- アーティスト: ACIDMAN
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
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