2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧
それから3週間後。 夜8時。良雄は、自分の部屋にいた。 勉強机に向かい、椅子に座り、もはや癖となってしまっていた、指の間で回す “シャープペン回し” を、黙々とやっていた。 部屋は、弟の洋介との相部屋だが、今、洋介はいない。 毎年恒例、小中高生が…
開け放たれた教室の窓から、西日が差し込む。と同時に、ゆっくりと、夕方にふさわしい少しだけ涼しい風が流れてきた。 3階にある教室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。 グラウンドでは、サッカー部と野球部がまだ練習をしていた。 大きな掛け…
西郷がゆっくり立ち上がる。 「こッの野郎、やっぱり来やがったな!」 そう言って、右拳を振り上げる。 そこへ、尾崎と西郷らがいる場所の、すぐそばの玄関入り口で成り行きを見ていた鬼木が、尾崎と西郷のところへ走る。 鬼木は、尾崎と西郷のあいだに入る…
体育館の中には、生徒だけだ。顧問は、大体いつもいない。体育館のフロアの、入り口側の一辺に、横一列に、この街の工業高校の男子生徒が並んだ。みんな、学制服だ。白の開襟シャツを着て、黒のズボンをはいている。 ちょうど真ん中に、パンチパーマをかけた…
右の眉毛の上に絆創膏を貼った西郷寛太。おととい、海江田和代に声をかけた際、転んで擦り傷を負った箇所だ。その西郷を筆頭に、いつも一緒にいる、馬面の男と小柄な男。そして今日は、その後ろに、西郷と同じくらい背の高い、ガッシリとした体格の男が4人…
今日は、三者面談の日だ。良雄と鬼木は、すでにそれを終え、晴れ渡る空の下、体育館の前にある木のベンチに座っていた。 体育館の中では、部活動が行われている。入口から見て、手前半分を女子バスケ部が、奥半分を女子バレー部が使っていた。男子バスケ部と…
良雄はこれまでの人生で1度も女の子に告白したことがなかった。ましてや言い寄られたこともない。だから、彼女いない歴18年だ。 網戸越しに、海からの風が入って来る。夜は扇風機もいらない。良雄は自分の部屋で、横にしたボールペンを上唇と鼻の間に挟み…
ちょうどその時、2階から鬼木和彦が下りて来た。鬼木は大学へは進学せず、地元が昨年,工場誘致したNECに就職する予定だ。そして、働きながらプロのボクサーを目指す。だから、夏休みに行われている課外授業には出席しない。朝の新聞配達を終え、2階に…