開け放たれた教室の窓から、西日が差し込む。と同時に、ゆっくりと、夕方にふさわしい少しだけ涼しい風が流れてきた。
3階にある教室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。
グラウンドでは、サッカー部と野球部がまだ練習をしていた。
大きな掛け声、金属バットからの打球音が、あたりに響く。
窓際で、そんな光景を眺めていた大久保清人が、後ろを振り向く。
教室には、良雄、尾崎、鬼木、そして和代が、それぞれ少し離れて、椅子に腰掛けていた。
「しかしお前らもようやるよなあ!」と、大久保清人が、両手を腰に当て、白い歯をみせながら、満面の笑顔で言った。
大久保清人は、4人の1年生の時のクラス担任だ。今は、良雄と和代のクラス担任だ。
「まあ結局、何も起こらなかったからな、良かったぞ」
そう言いながら大久保清人は、尾崎健吾の方に近づき、尾崎健吾の肩を軽く叩いた。
そして、「健吾オ、お前もあんまり無茶すんな。卒業できんごとなるぞ」
と、続けた。
さらに、和代の方を向いて、
「和代もな、何かあったらすぐ学校に連絡すること」
と言った。
「すみません」と、和代。
大久保清人は、鬼木にも笑顔で声をかけた。
「お前も良かったな! けんかにボクシング使わなくて」
それから、
良雄にも、笑いながら。
「しかし良雄オ、お前がまさかな。・・・はずしたけどオ!」
「はー・・・」
良雄も、そう答えながら少し笑った。
みんなも少し笑った。
「よオーし! おしまい!! みんな帰れ」
大久保清人は、両手を腰から離し、その両手で、下から風を送るようにして、あおった。
夕陽が、だいぶ地平線のほうへ、傾いていた。
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発売日 1988年 アルバム「靖幸」に収録