80’S~海をのぞむ街~
夜、福田良雄は、弟と一緒の部屋で、椅子に腰掛け、机に向かい、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、右手で、人差し指を支点に、中指と親指で、シャープペンシルをくるくると回していた。弟は相変わらず2段ベッドの上の方で、部活で疲れ果てた体を横たえてグ…
鬼木の父親は、元プロボクサーだ。しかし、全戦全敗。プロでは一度も勝てなかった。”それで、プロと言えるのか?”と、以前鬼木からこの話を聞かされた時、良雄はそう言いかけたが、やめた。確かに、鬼木の父親”鬼木吾郎”の風貌は、精悍だ。背が高く、細身だ…
お好み焼きを食べ終えたあと、鬼木と良雄は、2階に上がり、鬼木の部屋で、二人それぞれ漫画を読んでいた。鬼木は、自分のベッドに仰向けになり、”少年ジャンプ”を天井に向け広げていた。良雄は、畳に体育座りをして、壁に背をもたせ、”ドカベン”を1巻から…
「良雄、やっぱり理系に行くべきだったんだよ」良雄が和代に数学を教えたあと、和代が良雄に言った言葉を、良雄は脳みその中でゆっくりと揺らしながら、お好み焼きを一口ほおばった。目の前にいるのは和代・・・ではなく、鬼木勝彦、良雄の数少ない友人の中…
期末テスト2日目。教室はしんと静まり、みんな、頭を机に向けている。担当の教師は、廊下にいる。廊下の窓は、すべて開け放たれている。良雄の席は、黒板に向かって、廊下側から2列目、1番後ろの席だ。その前の席に和代がいる。 和代は1年生のちょうど今…
午後10時前になると、良雄は、ラジオの周波数を、NHK-FMにあわせる。佐野元春の”サウンドストリート”を聴くためだ。良雄は、この番組を聴いて洋楽をおぼえた。ボブ・ディラン、エルヴィス・コステロ、ニール・ヤング、・・・。部屋では、2段ベッド…
夕暮れ。夏休み前の期末テスト初日。福田良雄は、家路を歩いていた。テストは、午前中で終了したのだが、そのあと、教室で、母の手作り弁当を食べ、勉強をした。 目の前には、緩やかな道幅の狭い下り坂が伸び、その道の両脇には、ポツポツと古い民家が建ち並…