J-Song Stories

00年代の日本のロック・ポップをBGMにえがいた人間"熱いぜ"ストーリーです。

80’Sー20 ♪BLUE LETTER♪ 甲斐バンド

それから2年間、全戦全敗。鬼木吾郎はプロになって1度も勝つことはなかった。それどころか、1発のパンチさえ繰り出すことはなかった。 プロとしての最後の試合を終え、引退した鬼木吾郎は、故郷のこの街に戻った。24歳の春だった。吾郎は、地元の運送会…

80’Sー19 ♪ラストショー♪ 浜田省吾

吾郎は、その質問には答えなかった。 実は、鬼木吾郎は、人を殴れない。 吾郎は、今から48年前この街に生まれ、この街で育った。高校ではボクシング部に所属していた。そして、その強さは、高校生No.1。全国大会で2度優勝するなど、いわば、地元のヒ…

80’Sー18 ♪ダディーズ・シューズ♪ ARB

「なんだよ、補導されたんじゃなかったのかよ」 スズキの軽ワゴン“エブリイ”を運転する父鬼木吾郎に、助手席に座っていた息子鬼木和彦がそう言った。 高校が夏休みに入ると、隣街にあるボクシングジムでの練習は、週末だけではなく、平日も行われるようにな…

80’Sー17 ♪FENを聞きながら♪ HOUND DOG

「へっ、またイカ〜?!」 福田良雄の弟洋介が中学校の部活から帰ってくるや、食卓を見てそう嘆いた。 するとすかさず、すでに椅子に腰掛けていた祖母トラが、 「こら!何を贅沢な事を言うちょるか! ばち当たっど!」とたしなめた。 福田家は、先祖代々引き…

80’Sー16 ♪時に愛は♪ オフコース

海江田由美子の実家・津山家は、この街の東側、車で30分ほど行った先の山の麓にある。 両親とも健在で、農業で生計を立てている。 三姉妹の長女である由美子は、地元の商業高校を卒業すると、東京の百貨店に就職した。そこで、その年、客として来ていた現…

80’Sー15 ♪守ってあげたい♪ 松任谷由実

オロナミンCを飲み終えると和代は、老婆に断りを得て、たばこ屋の黒電話をかりた。 そして自宅の電話番号を回し、和代の母に、たばこ屋まで迎えに来てほしい旨を伝えた。 夕飯の支度をしていた和代の母、由美子は、30分ほどして、赤のアルトに乗って、た…

80’Sー14 ♪ピーターラビットとわたし♪ 大貫妙子

和代は商店街を30メートルほど逆走したあと、すぐに左に折れた。 そしてその車1台がやっと通れるぐらいの路地をまた30メートルほど走り、右側にあるたばこ屋に入った。 「また何かあったらここにもぐり込め」 そうこのまえ尾崎健吾が教えてくれた店だ。…

80’Sー13 ♪David♪ 矢野顕子

裏通りにある静かな商店街。夕方6時を過ぎるとなおさら静かになる。 開いている店はほとんどない。 和代は、その商店街の半ばにさしかかったところで、左肩後方からせまる、けたたましいバイクのエンジン音を聞いた。 「チーースッ!」 この町の工業高校2…

80’Sー12 ♪消えない夜♪ 安全地帯

クラスは同じだったが、1年生の頃、海江田和代と尾崎健吾は一言も言葉を交わしたことがなかった。そんなことを思い出しながら和代は、学校帰り、途中女子バスケ部の後輩と別れたあと、一人、母と二人で暮らしているアパートへと向かっていた。 夕方6時を過…

80’Sー11 ♪SITTING ON THE FENCE♪ ザ・ルースターズ

尾崎は、夏の制服姿の良雄と違って、私服だった。半袖のTシャツの上に赤色の襟付きのシャツを羽織り、ブルージーンズにスニーカーだった。 「ひっ、さし振りー! 良雄っちゃん!」 軽やかに階段を1段下りて尾崎は、良雄の左側にヒョイと腰をおろした。 「…

80’Sー10 ♪GROWIN’ UP♪ 渡辺美里

学校は、夏休みに突入した。良雄たち3年生は、午前中だけだが課外授業がある。が、しかし、良雄は、愛用のママチャリに乗り、学校とは違う方向、海岸沿いを走る国道へと向かった。普段は徒歩通学で、学校からは自転車通学の許可はおりていないが、家には、…

80’Sー09 ♪YES MY LOVE♪ 矢沢永吉

たとえ進学校でも、いわゆる不良生徒は何人かいる。尾崎健吾もその一人だ。尾崎は、だれともつるまない。一人で行動する。これまで、喫煙、無免許でのバイク運転、喧嘩、と何度か停学処分をくらった。 ”今回で何度目だろう。鬼木の言う通り、本当にもう危な…

80’Sー08 ♪宵闇にまかせて♪ 大澤誉志幸

尾崎健吾とは、鬼木勝彦や海江田和代と同様、1年生の時同じクラスだった。高校入学して春先、ゴールデンウイーク前、掃除の時間尾崎は、廊下でほうきをギターに見立て、ふざけ半分に『アイ・ラヴ・ユー,OK』を歌っていた。 そこへ良雄が、「あっ、それ、…

80’Sー07 ♪チャンス到来♪ バービーボーイズ

夜、福田良雄は、弟と一緒の部屋で、椅子に腰掛け、机に向かい、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、右手で、人差し指を支点に、中指と親指で、シャープペンシルをくるくると回していた。弟は相変わらず2段ベッドの上の方で、部活で疲れ果てた体を横たえてグ…

80’Sー06 ♪I・CAN・BE♪ 米米CLUB

鬼木の父親は、元プロボクサーだ。しかし、全戦全敗。プロでは一度も勝てなかった。”それで、プロと言えるのか?”と、以前鬼木からこの話を聞かされた時、良雄はそう言いかけたが、やめた。確かに、鬼木の父親”鬼木吾郎”の風貌は、精悍だ。背が高く、細身だ…

80’Sー05 ♪Angel Duster♪ THE STREET SLIDERS

お好み焼きを食べ終えたあと、鬼木と良雄は、2階に上がり、鬼木の部屋で、二人それぞれ漫画を読んでいた。鬼木は、自分のベッドに仰向けになり、”少年ジャンプ”を天井に向け広げていた。良雄は、畳に体育座りをして、壁に背をもたせ、”ドカベン”を1巻から…

80’Sー04 ♪TEENAGE BLUE♪ THE MODS

「良雄、やっぱり理系に行くべきだったんだよ」良雄が和代に数学を教えたあと、和代が良雄に言った言葉を、良雄は脳みその中でゆっくりと揺らしながら、お好み焼きを一口ほおばった。目の前にいるのは和代・・・ではなく、鬼木勝彦、良雄の数少ない友人の中…

80’Sー03 ♪ラブ パッション♪ レベッカ

期末テスト2日目。教室はしんと静まり、みんな、頭を机に向けている。担当の教師は、廊下にいる。廊下の窓は、すべて開け放たれている。良雄の席は、黒板に向かって、廊下側から2列目、1番後ろの席だ。その前の席に和代がいる。 和代は1年生のちょうど今…

80’Sー02 ♪Sugartime♪ 佐野元春

午後10時前になると、良雄は、ラジオの周波数を、NHK-FMにあわせる。佐野元春の”サウンドストリート”を聴くためだ。良雄は、この番組を聴いて洋楽をおぼえた。ボブ・ディラン、エルヴィス・コステロ、ニール・ヤング、・・・。部屋では、2段ベッド…

80’Sー01 ♪デリカシー♪ 安全地帯

夕暮れ。夏休み前の期末テスト初日。福田良雄は、家路を歩いていた。テストは、午前中で終了したのだが、そのあと、教室で、母の手作り弁当を食べ、勉強をした。 目の前には、緩やかな道幅の狭い下り坂が伸び、その道の両脇には、ポツポツと古い民家が建ち並…